2 なぜマイコンを使うのか

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自分では作れない
この茶汲み人形を自分で作るっていうときに一番問題なのは、これは自分では作れないってことです。単にゼンマイに車輪を付けて前に進ませる部分は自分でも作れると思います。腕の部分に物をおいたらストップさせられる仕組みも、たぶん何とかなるんじゃないかなという気がします。ただ、一定距離だけ進んだら、ちょうど180°方向転換してまた同じ距離だけ進むっていうところはもうお手上げですね。カム板を使うとか、歯車の回転枚数を数えるストッパーを作るとか、何となく仕組みは想像できますけど、実際に作れと言われても、自分はちょっとって感じですね。できるにしても結構な時間がかかると思います。まずは手先を器用にして、ナイフとかかんなとか、今風の道具を使っていいのならボール盤とか、CNCルーティングマシンとかの使い方から覚えないといけないことになりそうです。気が遠いですね。
でもマイコンを使うならかんたんです。車輪の回転数をセンサで読み込んでおいて、一定数回転したら、今度は、片側の車輪だけ一定数回転させればいいだけですから。マイコンを使ったことが無い方だと、なんだか難しそうだなと思われるかもしれませんけれども、このプログラムというのは、紙に印刷したら、多分A4のコピー用紙1枚に収まります。
物足りない
次の問題は物足りないと思ってしまう点です。茶汲み人形は、確かにすごいんです。でも、私は、現代、この時代に生きている自分の目から見ると、申し訳ないんですが、だからどうしたという印象を持ってしまいます。自分だったら、ここにもっといろいろな機能を付けてみたいです。運んでいるときに、障害物にぶつかりそうになったら自動的に停止する機能だとか、入れたお茶が熱すぎたら、「こんなお茶出したらお客さんやけどしますよ」としゃべったりとか、その時に目が赤く光るっていうのも面白いですよね。お客さんが男性だったら急にスピードを上げて通り過ぎたりとか、女性だったらしつこいぐらい何度も汲みに行ったりとか、男性か女性かは声の周波数で判断してですが…。自律動作をするだけではなくて、気分によっては、ラジコン操作ができたりするというのもいいですねぇ。右に、左に、スピードアップ!!とかです。お茶を運んでいるときはスピードにリミッターがかかるということでもいいと思います。
でこれらの機能なんですが、電気が通っているということでないとなかなか難しいですよね。非接触の距離センサを江戸時代の工芸技術で作るというのは多分不可能でしょうし、温度に応じた制御というのもなかなか難しいのではないかと思います。マイコンをつかうと、これらを感じ取ることのできるセンサーの出力に対応できるわけで、面白い活用範囲が増えるわけです。音声再生とか、無線操縦とかも、工芸的な技術では、事実上不可能ですよね。ですので、マイコンを使いたいわけです。
変更が大変
3つめの理由は、からくり仕掛けで作ると、変更が大変だという点です。
例えばですが、方向転換するまでの距離を変えたいとします。茶汲み人形は、前輪と後輪があって、一定距離を走ったら、前輪の向きが変わって方向転換するという仕組みになっています。で、この一定距離というのが、いわゆるカム盤を使っていて、走る距離を変えています。カム盤というのは、膨らんでいる部分がある円盤ですね。カム盤に板や棒状のものを押し当てておいて、カム盤を一定の速度で回すと、カム盤の膨らんだ部分に板が当たるときだけ板が押されます。茶汲み人形だと、方向転換を担当している車輪の舵取りの向きを、押して傾けている訳です。
で、たとえば前進する距離を短くしたいときにはどうしたらいいかというと、車輪を回すスピードはそのままで、カムを回すスピードを速くして、カムの形、出っ張りの幅ですね、を変える必要があります。
で、これをやろうと思ったら、歯車とカムを作り直さないといけないわけで、木を削ってつくるところから始めないといけないわけですね。距離を変更する度に部品の作り直しってなると、どうですか。わたしだったら、そんなのやってらんないよと思います。木を削ることに無性の喜びを感じるからいいですっていう人もいるかもしれませんけど、それでもその度に作っていたら、時間がかかってしまって仕方がないですよね。
でこれがマイコンだとどうなるかというと、もとのプログラムで、距離が、「直進は車輪10回転分」となっているプログラム部分を、エディタで「直進は車輪15回転」って変えるわけです。1.5倍にしたいなら、設定数値を1.5倍にするだけです。簡単ですよね。これなら何回変更するのも億劫にはならないと思います。
ワイヤードロジック
ちなみにマイコンを使わない普通の電気回路でも同じ問題が生じます。
電気を使って制御する場合でも、マイコンを使わないものはいくらでもありますよね。うちにあるオーブントースターなんですが、どこから見てもマイコンが入っているようには見えないんですが、温度センサーによって制御がされています。時間のダイヤルを回したら、ヒータが赤くるんですが、しばらくして庫内が熱くなってくると、まだチーンってなっていないタイミングでも、ヒーターへの通電がとまって、ヒーターが黒に戻るんです。そしてしばらくしたらまたヒータが赤くなってを繰り返します。これを繰り返して庫内の温度を一定に保つわけですね。これも仕様を変更しようとしたら大変ですね。かりっと焼きたいということで、ヒーターを停止する温度を変えようと思ったら、抵抗を変更するだけで済むような回路構成ならまだいいんですが、下手をするとセンサーを交換しないといけなくなっちゃいます。いずれにしても、物理的に変更を加えないと、変更ができないわけですね。マイコンであれば、例えばセンサーが温度を無段階に数値で出力できるものであれば、ヒーターのオンオフの判断基準にする温度を変更すればいいだけですね。センサーが、一定の温度よりも上か下かだけを判断できるセンサーでも、例えば、センサーから、基準温度を超えたっていう信号を送られてきたら、それから一定時間待ってからヒーターをオフにするという制御をすれば、焼き上げる温度を高めに設定することができると思います。これは全部プログラムの変更だけで、物理的な、機構的な部分は、変更不要です。
からくり人形的に工芸品的に作ること自体はロマンがありますし、それももちろん魅力的です。挑戦したい気持ちもあります。でも、わたしならマイコンを使って作ることを選びます。趣味なら、からくり人形方式という選択肢もあり得ないでもないですが、仕事なら、かならずマイコンを使うと思います。