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前項ではフォトカプラを介してFETを駆動する方法を紹介しました。しかしこの方法には一つ問題があります。
FETの長所の一つにスイッチングの高速性があるのですが、フォトカプラだけを使った駆動回路では、高速性を発揮することができません。FETのゲートは電気的にはコンデンサと同じ働きをしており、このコンデンサ部分に電荷が十分に充電されて初めてFETは完全にオンになります。逆に放電しきったときに完全にオフになります。このコンデンサ部分の容量をゲート容量といいます。パワートランジスタほどゲート容量は大きくなっており、具体的な容量値はデータシートで確認できます。FETのスイッチングを早くしようと思えば、コンデンサへの充放電を速くしなければいけません。充放電を速くするためには、ゲートに流す電流を多くする必要があります。
フォトカプラを使った駆動回路の場合、例えばP型FETのためのコレクタ接続回路であれば、充電電流はコレクタと電源のプラス側との間の抵抗を経由することになります。そのためオームの法則から導かれる電流量しか流すことができません。もっともこの抵抗はフォトトランジスタがオンになったときの出力の電位を下げるために必須のものですので外したり、不用意に抵抗値を減らしたりすることはできません。
また放電電流はフォトトランジスタの能力に依存することになりますが、TLP521の場合、赤外線発光ダイオードへの入力電流が3mA程度の時には、コレクタ電流は3mA程度です。
電源が7.2Vの場合、2.2kΩの抵抗を介すると、電流値は約3.2mAになります。2SJ334のゲート容量は110nC(ナノクーロン)です。C(クーロン)は電気の量である電荷を表す単位で、1Cは1Aの電流が1秒間に流れたときの電荷を意味しています。そうするとここから逆算して、充電時間はゲート容量÷電流で求められます。今回の例でいくと、110E-9÷3.2E-6≒34μsです。「110E-9」は対数を利用して小さい数を表すための表現で「110×10-9」を意味しています。
34μsというとごく短い時間のようにも思えます。しかしPWM周期を100Hzにして、デューティー比を100段階で調整できるようにすると、最小のパルスは10KHzとなります。10KHzのパルスの幅は100μsですから、FETのオンに34μsもかかってしまうと、FETから出力される波形は、元の波形とは大きく違ったものになってしまいます(図 8?88)。
図 8?88 FETのゲート電圧:理想的な波形と現実の波形
DCモータを駆動するのに望ましいPWM周波数は100?10KHz程度だそうです。100Hzの波形でもこれだけ変化してしまうぐらいです。PWM周期が1KHz、10KHzの最小パルス(100KHzや1MHz)など正確に再現しようがありません。100KHzであればパルス幅は10μsしか無く、オンに34μsもかかってしまうと、FETがオンになるだいぶん手前でパルスが終わってしまいます。
このことを実験で確かめてみました(表 8?26)。前項のHブリッジ回路とサンプルプログラムを使用して、実際に出力されている電圧を計測します。負荷部分にはモータの代わりに1kΩの抵抗を接続しています。TIM_Prescalerの値を調整し、PWM周期を10Hzから10KHzまで変化させました。実験時の電源電圧は7.82Vです。
表 8?26 PWM周期と出力される電圧の関係
|
36000 |
3600 |
360 |
36 |
TIM_Prescaler |
デューティー比 |
10Hz |
100Hz |
1KHz |
10KHz |
PWM周期 |
1% |
0.085V |
0.146V |
0.547V |
0.00V |
|
2% |
0.162V |
0.225V |
0.775V |
0.179V |
|
3% |
0.241V |
0.302V |
0.908V |
1.083V |
|
4% |
0.319V |
0.380V |
0.999V |
2.191V |
|
5% |
0.397V |
0.457V |
1.079V |
3.159V |
|
6% |
0.476V |
0.532V |
1.157V |
3.834V |
|
7% |
0.529V |
0.611V |
1.234V |
4.36V |
|
8% |
0.632V |
0.689V |
1.312V |
4.80V |
|
9% |
0.711V |
0.763V |
1.389V |
5.19V |
|
10% |
0.789V |
0.842V |
1.467V |
5.53V |
|
20% |
1.572V |
1.623V |
2.243V |
7.49V |
|
PWM駆動をしているわけですから、出力される電圧は、電源電圧にデューティー比を乗じた電圧となるのが理想的です。実験ではPWM周期が100Hzの時は、理想に近い電圧が出力されました。ところが1KHzとすると、1%?2%のあたりは理想的な電圧の倍近い電圧となっており、その後の電圧も理想状態からは2割、3割り増しの電圧となっています。10KHzとなると大幅に電圧が高くなり、100KHzになると、すでにデューティー比に比例しているとはとうてい言えないような電圧変化になっています。
多くのMOSFETでは、ゲートに充電するよりも放電するのに時間がかかることから、放電しきる前に充電が開始されたことにより、スイッチング時間が長くなって、このような結果となったものと推測されます。また使用したフォトカプラが高速駆動に向いた製品でないことも原因の一つでしょう
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